“人生に、駆けぬける歓びを。”のコンセプトのもと、日本独自で展開されるプロジェクト「BMW BELIEVES」。クラシック音楽をテーマとした催しの第3回目として、ブランド・ストア『FREUDE by BMW』にて弦楽四重奏コンサートを開催いたしました。ブランド・フレンドでもあるピアニストの反田恭平氏がプロデュースするJapan National Orchestra(ジャパン・ナショナル・オーケストラ)から、気鋭の奏者4名をお招きした珠玉の一夜。その模様をレポートいたします。
BMW BELIEVES
その歓びは、いつだって新しい。
BMWは長きにわたり、グループ全体で芸術および文化振興のためのさまざまな活動に積極的に取り組んできました。これまで実現したプロジェクトの数は全世界で優に100を超え、多様なパートナーとのコラボレーションが生むユニークな体験や出会いによって、交流、革新、創造の新たな機会をもたらしてきました。
今回、日本における芸術や文化、スポーツの発展をさらに推し進めるために開始された新たなプロジェクト「BMW BELIEVES」。
“人生に、駆けぬける歓びを。”というコンセプトのもと、BMW Japanではクラシック音楽とゴルフ、そしてモータースポーツの分野を中心に、継続的なサポートを行ない、さらなる発展に向けてともに歩んでゆきます。
培われた伝統を、未来へとつなぐ結節点として。
2025年7月25日(金)。陽が傾いても厳しい暑さが続くなか、BMWブランド・ストア『FREUDE by BMW』(東京・麻布台ヒルズ)には続々とお客様が来場します。入口脇でお迎えするのは、“BMWと日本の名匠プロジェクト”により創出されたコンセプト・モデル「BMW X7 NISHIKI LOUNGE」。伝統工芸の技巧による溜息を誘うほどに美しいインテリアや、ボディの2トーン・ペイントの輝きを堪能しながら、開演までのひとときを優雅に過ごされているようでした。
午後7時、コンサートは定刻通りにスタート。まずは主催者を代表し、BMW Japan ブランド・コミュニケーション・マネジャーの井上朋子よりご挨拶を。「BMW BELIEVES」の概要や、「BMW X7 NISHIKI LOUNGE」をベースにより細やかなオーダーに応え、世界にひとつのX7を生み出す “カスタム・オーダー・サービス”についてのご案内、そして2022年から続くJapan National Orchestraへのツアー協賛と、今回のコンサートについてご説明をさせていただきました。
4つの音が重なり、ひとつの世界を生み出す。
いよいよ奏者の登壇。4名がそれぞれの愛器とともに姿を現し、向かって左から東亮汰さん(第1ヴァイオリン)、岡本誠司さん(第2ヴァイオリン)、長田健志さん(ヴィオラ)、佐々木賢二さん(チェロ)の順に着席します。しばしの静寂の後、まず奏でられたのはモーツァルトの「弦楽四重奏曲第14番 ト長調 KV 387『春』第1楽章」。速度標語に“Allegro vivace assai(非常に軽快に、速く)”と記されているとおりの溌剌とした麗らかな旋律。そしてその奥に、生命の息吹や力強さといった躍動が感じられます。
演奏終了と同時に、会場からは拍手の波が。その波が静まるのを待ち、岡本さんがメンバー紹介と本公演の趣向について話しはじめます。まず、弦楽四重奏という編成はクラシック音楽において謂わば“核”となるような重要な編成であること。そして限られた編成であるが故に、それぞれの作曲家のいちばんコアな部分を伝えられる。だからこそ今日の公演を、作曲家の魂を感じながらじっくりと愉しんでいただきたい、と演者たちの想いが語られると、客席は大きな拍手で応じました。
次曲からはメンバーのおすすめ曲が奏でられるとのことで、ここでマイクを長田さんへバトンタッチ。選ばれた曲は、チェコの作曲家スメタナの「弦楽四重奏曲第1番 ホ短調『我が生涯より』第1楽章」でした。晩年に聴力を完全に失ってしまったスメタナが、幻聴も聞こえるような状況下で自分の人生を振り返りゆく、半自叙伝的な曲です。
時代を超えて心を揺さぶる、緻密な描写力。
第1楽章のメロディは長田さんが担当するヴィオラから始まり、その後もヴィオラが主役であり続けます。長田さんが語るところの「まるでスメタナ自身の声、叫び」のような有機的な旋律は、美しくも重厚な印象からスタートし、やがて青春期を思わせるようなロマンティックな主題へと移り変わってゆきます。かつてフランツ・リストも熱狂したというこの作品の世界が、Japan National Orchestraの4人が生み出す熱量によって、今、観客たちの眼前へと鮮やかに描き出されます。
続いての曲は、佐々木さんセレクトによるコルンゴルトの「弦楽四重奏曲第2番 変ホ長調 Op. 26 第2楽章」。第二次世界大戦の勃発によりウィーンからハリウッドへと亡命し、数多くの映画音楽も手がけたコルンゴルト。彼が亡命前に書き上げ、後にアメリカで出版されたこの曲を、佐々木さんは「子どもがおもちゃ屋さんや、カラフルなキャンディがいっぱいあるお店にわくわくしながら入っていく時のような曲」と表現します。
演奏が始まると、緩急がありつつリズミカルなその旋律に、聴き手の心まで高揚してきます。「自分は弾きながらニコニコするタイプではないですが、この曲は弾いていると愉しくなってきてしまう」と語っていた佐々木さんも、チェロを自在に操りながら軽快なその調べに心を躍らせているようでした。
天才の美しき苦悩に、魅せられる。
「おもちゃ箱のような曲の後は、少ししっとりとした曲を」と、岡本さんが選んだのはベートーヴェンの「弦楽四重奏曲第13番 変ロ長調 Op. 130 第5楽章」。スメタナと同様に聴覚を閉ざされたベートーヴェンは、精神的にも肉体的にも弱りゆく自分を敢えて直視します。「そのとてつもない苦悩のなかに、あたたかな希望の光が差し込んでゆく。非常に美しい曲です」と岡本さんが述べると、4人はゆっくりと息を揃え、演奏に入ります。
荘厳で情感豊かな表現。それは“叙情的なアリア”を指す『カヴァティーナ』の名のとおり、ベートーヴェンの苦悩をこのうえないほどに美しく、緻密な筆致をもって辿ってゆきます。約6分間という演奏時間。そのすべての瞬間において旋律に浸っていたいと思わせる、圧巻の世界が会場内に拡がりました。
メンバーおすすめ曲のラストは、東さんが選んだバルトークの「弦楽四重奏曲第2番 Op. 17 第2楽章」。ハンガリー王国に生まれ、東欧をはじめとした民俗音楽の収集・研究でも知られるバルトーク。「非常に強烈で混沌としたこの曲は、多様な地域の民俗音楽と自らの作品が強く結びついた時期に作られた曲です」と東さんが語ります。
この場所でしかできない体験を、これからも。
この作品が書かれたのは第一次世界大戦の最中。「非常に強烈で混沌とした」と東さんが表現した通り、緊張感のあるトリッキーなリズムが観客を巻き込みながら展開してゆきます。安定することのない拍子からも、政治や社会が混乱を極めていた当時の空気が感じ取れます。演奏技術的にも非常に高度かつ挑戦的なこの曲の演奏を終えると、客席からは盛大な拍手が沸き立ちました。
1曲目からここまで、それぞれまったく異なる楽曲の世界を堪能してきた観客たち。そのクライマックスを飾る曲として用意されたのは、ベートーヴェンの「弦楽四重奏曲第11番 ヘ短調 Op. 95『セリオーソ』」でした。岡本さんが「作品としては最もコンパクトながら、ベートーヴェンがどのように弦楽四重奏と向き合ってきたのか、いちばん密度が高く愉しめると思います」と曲を紹介し、それぞれが演奏に向け愛器を構えます。
4人のユニゾンで鋭く始まるこの曲は、『セリオーソ(厳粛な)』という副題の如く、厳格で真剣な音楽=自我との対峙が、時に力強く、時におだやかに続きます。その哲学的な表現から、友人宛の書簡で「この曲は小さな愛好家のグループのために書かれたもので、公の場で演奏されることは決してない」と書いたベートーヴェン。その生き方や葛藤が凝縮された約20分間の『セリオーソ』は、この特別な会を締めくくるに相応しい曲となりました。
終演後、万雷の拍手が降り注ぎます。Japan National Orchestraの4人の顔は上気しつつ、充足感にあふれています。奏者の息遣いまで聞こえてきそうな至近距離でのコンサート。普段では味わえない演奏を堪能したお客様たちの表情は、どれも心を満たされた歓びに彩られていました。
BMW Japanでは「BMW BELIEVES」プロジェクトのもと、クラシック音楽をはじめとした文化振興のために、今まで以上のさまざまな支援活動に取り組んでゆきます。